分子・生体分子の系譜(2)/ゴーシュ

ecochem2005-01-10

吉田先生とのメールのやり取りの中で生まれた仕事の中に(いろいろな方とこういう経験をさせてもらえるのがまさにネット時代の醍醐味!),分子振動データ集がある。海外のWeb情報をやり取りしている中で,吉田先生がすでに持っているデータ(それは計算化学分野でとても貴重なものである)をフリーウェアで加工すればできるということがわかって取り組んだ経緯がある。分子の基本的性質だけでなく,温室効果ガスの作用を知ってもらう上でも不可欠のコンテンツとなっている。
詳細は同データ集を見てもらうとして(Chimeのインストールが必要),その中の分子振動/ゴーシュ形の発見に関して聞かせてもらった話は,多くの人に知ってもらいたいもの。
それは,化合物の立体配座を示す語としてしばしば用いられる“ゴーシュ(gauche)”は,1,2-ジクロロエタンのラマン分光研究において,1940年頃日本の水島三一郎博士らによって発見されたゴーシュ形の異性体が世界で初めてのものとなっているということである。
セロ弾きのゴーシュ (角川文庫)
ゴーシュと言えば,まず宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」であるが,ゴーシュの意味を調べてもらえば化合物名で用いられている理由もわかるだろう。
科学で使われている言葉の多くは,科学以外の中から選ばれていることは,2004/12/45の日記でも取り上げた言葉の連想ゲームを見てもわかってもらえるだろうし,そのことが科学に興味を持ってもらうきっかけの一つになれば,と常々考えている。
Handbook of Vibrational Spectroscopy, 5 Volume Set
なお,吉田先生が執筆に参加された分子振動関係の書籍として以下を紹介しておく(右表紙画像は Vol. 3 でなく Vol. 1)。

  • Hiroatsu Matsuura and Hiroshi Yoshida, "Calculation of Vibrational Frequencies by Hartree-Fock-based and Density Functional Theory", in Handbook of Vibrational Spectroscopy, Eds. J. Chalmers and P.R.Griffiths, Vol. 3, Wiley, Chichester (2001)

※カットは分子振動/ゴーシュ形の発見に示したゴーシュ形1,2-ジクロロエタンのC-Cl伸縮振動(実測=669cm-1,計算=649cm-1)で作成したアニメ画像。