ARG岡本さんの新刊と学び合う場としてのWebの歴史

拙作サイト「生活環境化学の部屋」10周年を迎えた日に,そのことを祝ってくれるように待ちわびた新刊が届いた。
これからホームページをつくる研究者のために―ウェブから学術情報を発信する実践ガイド (ACADEMIC RESOURCE GUIDE)

著者はこのブログでも再三情報を引用させてもらっているメールマガジンACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)の発行人である。ARGを読んでいると,岡本さんは文系・理系関係なく国内のアカデミックなサイトを隅から隅まで知っているのではないかと思わされるのだが,その選択眼と確かな論評を加える力量が本書にしっかり集大成されている。大学人がネットでできること,なすべきことが,筋道の通った項目立てと具体例で余すところなく語られている。もちろん“Web2.0”という語も取り上げて,将来への展望も示してくれている。
私が知らなかったサイトももちろん多いのだが,いつもお世話になっているサイトも多数出てきて,インターネットの歴史を懐かしく振り返ることができた。
「附録」の『研究者の個人ホームページの歴史』(サポートブログ[年表(稿)] 掲載)から,日本で最初のWebページ誕生までを引用してみよう。

  • 1984年10月 慶應義塾大学東京工業大学東京大学を結ぶJUNET(Japan University NETwork)開設
  • 1986年 4月 文部省学術情報センター現在国立情報学研究所)、設立
  • 1988年 4月 WIDE Project、発足
  • 1992年 9月 森田洋平、日本最初のホームページを公開


この,『日本最初のホームページ』は作成者がKEK:高エネルギー加速器研究機構に所属されていた時のもので,現在も保存されている。KEKの「はてなマップ」と一緒に紹介しよう。




KEK入口のモニュメント(2004年夏の一般公開で訪問したときに撮影)

その最初のページから約4年後に新潟でプロバイダサービスが始まり,自前サイトを開設したことになる。


当時は,モデムを使って速度が22.8kbps。ちょっと大きな写真などは上の方から少しずつスキャンされて表示されるような状態で,とても今のようにネット版FM放送で音楽を聞きつつGoogle Earthで遊ぶと同時に分子計算をするなどという時代が来るとはイメージすることは不可能だった。
その10年は激動の時代で,まさに岡本さんの本はそれを鮮やかにトレースさせてくれる。そして同時に,ネットという存在を師に選んでしまった私という一学び手として,大学とは? 研究とは? 業績とは? と時には悩みつつその流れの真っ只で考えたことどもを,これもクールに整理してくれている。
ネットを抜きで語れない今という時代に至る過程を,走馬灯のように見せてくれるだけでなく,Webページ作成のノウハウがビッシリ詰まった「これからホームページをつくる研究者のために」という労作を,大学人だけではなく是非多くの人に読んで欲しいと思う。
それは,ネット書店で,例えばbk1では『インターネット』の棚に並び,ジュンク堂書店では『哲学一般』の棚に並べられている(何れも本日時点)という事実が,インターネットにとどまらないこの本を幅広さを証明してくれていることからも訴えかけたいことである。
さて,やらなければならないことも多々教えてもらったので,これからも楽しみつつ情報発信に取り組むことにしよう。