「今年の化合物」はビスフェノールAとPDBデータ2E2R

ecochem2007-12-16

いつも参考にさせてもらっているブログの最新記事,

“さてあなたが選ぶ「今年の化合物」は何だったでしょうか?”とあるのでそれに応えて。
私の場合,2000年から注目記事は以下のページに集積していて気になった分子は画像入りで紹介しており,1年を振り返ることができる。

それを眺めていて,このブログの記事とも考え合わせて「今年の化合物」はビスフェノールA*1PDBデータ2E2Rに決定!
何をいまさらという方も多いと思うが,

に書いたように,長年情報を追跡してきた環境ホルモン情報の中でも特筆すべき情報で*2,その受容体のPDBデータ2E2Rが2007/09/11に公開されたのを受けて下記ページ(Jmol版)を作成したのである。

詳細は構造データを解析した研究グループによるプレスリリースをご覧いただきたい。


この中に,
    “「ビスフェノールAには、女性ホルモンと似た作用があるが、その生体影響は無視できる」とこれまでされてきました。しかし、今回、本研究グループ(九州大学大学院理学研究院化学部門(構造機能生化学)・下東康幸研究室)は、その効果を調べてきた標的(女性ホルモン受容体)が見当違い、的外れだったことを世界で初めて明らかとしました。実は、ビスフェノールAは女性ホルモン受容体とはまったく別の受容体、「エストロゲン関連受容体γ型」(ERRγ)に天然のホルモン並に非常に強く結合することが判明しました”
とあるが,ERRγと女性ホルモン受容体のアミノ酸配列の違いについては下記エントリーにも記載した。

また,上掲プレスリリースの末尾には,

    “今回の研究成果で分かったもう一つの重大なポイントは、『環境ホルモンの研究がまだ、入り口付近にあり、端緒に着いたばかりである』という現実です”
とあるが,これについても先日のエントリーに記載したとおり私自身REACHとも絡めて実感していることであるし,その記事中もビスフェノールAの画像を出していることも「今年の化合物」にふさわしい*4


拙作Webサイト内の分子の画像が載ったWWF資料 [PDF]

以上,1つの分子にこだわることの重要性を再認識したという意味で,「今年の化合物」とさせていただく。
蛇足だが,次点は下記記事のトラミプロセート(厳密には昨年の分子だが)。こんな簡単な分子が思わぬ機能を発揮するという意味で,分子の世界の奥深さを実感させられた。


トラミプロセート(再掲);アルツハイマー病治療薬参照

さて,来年はどんな分子が話題になりWebコンテンツやブログ記事を書くことになるのだろうか。明るいニュースが多くなることを望んでいる。

*1:新「動く分子事典」ではp.192・205,208に記事。

*2:その関連では2007/09/11の記事で紹介した以下の論文も極めて重要なものであった。
 ・青木康展,『ベンゼンはなぜ動物には有害か ─毒性研究を広く自然界を見渡して考える』,科学,2007年9月号,pp.986-989

*3:記事中のデータを作成した自作秀丸マクロについては来春の日本化学会第88春季年会で報告する予定である。

*4:なお,環境ホルモン分子の画像については下記雑誌にも筆者サイトによるものがビスフェノールAほか5データ掲載されている。
 ・「別冊宝島1397 図解 地球の真実」,宝島社(2007/02/14発売)