世の中の存在しなかったものをつくる(集大成的コンテンツ作成開始)

日本コンピュータ化学会2008春季年会の要旨がPDFで読めるようになり,2008/05/25に記した学会賞受賞の講演要旨も公開された。


学会賞受賞講演「インターネットを利用して分子を学んでもらう試み」[PDF]

※参考:学会参加記録

同学会は春・秋の2回年会が開かれ,これまでは年1回秋に研究発表してきたのだが,今回1件報告したので秋に話すネタができないのではないかと案じていた。今年は行ったことがない高知で開催(2008/09/27-28)ということでどうにか行きたいこともあって,以前から考えていた新しい秀丸マクロ作成に取り組んだところ,なんと1日でできてしまったので,これまでに少し貯め込んでおいたPDBsumデータに適用し,週末の2日間で新コンテンツ公開に漕ぎつけた。タンパク質の鍵と鍵穴の関係がインタラクティブで美麗な分子モデルと有機性・無機性という数値で同時に参照できることの意味は大きく,大言すれば地球型生命の秘密にも迫るものとも考えている。


掲載データ例:
α-シクロデキストリンを含む1btcのSITE部分

マクロ作成は久々なので感覚を取り戻すことも必要で半月は悩むだろうと思っていたのにどうにかうまくいき,これで今後データを追加し,自動計算できないリガンド(鍵)の値を計算すればどうにか高知で話せる内容になるだろう。言わば学会賞受賞第一作である。
マクロ作成の“鍵”となったのは統一されているPDBデータの形式であり,タンパク質はN末端側からアミノ酸配列が記されており,各アミノ酸が最初がα炭素に結合している窒素(N)で原子種記載が他の窒素と違って“N”だけになっている。これが書かれている文字列を探してその行のアミノ酸記号を取得し,有機概念図の有機性・無機性の加算をしていけばよいだけの話である。文字列の扱いなどは昔取り組んだN88BASICを思い出しながらの作業であった。

今回作成の秀丸マクロで処理したPDBsumデータ例(上掲1btcのSITE部分
※冒頭2行に有機性・無機性値,が検索対象の窒素

次に分子と分子の相互作用を“水”と“油”で考えるための純国産ツールの有機概念図ともN88BASIC時代からExcelを経てつきあって来たよしみがある。すべての化学物質を1つの図に示そうとするその思想は,以下の図に示されるように生物の世界は20種類のアミノ酸でやりくりする(もちろん金属インや補酵素などそれ以外の原子・原子団を囲い込みつつ)という極めて単純なルールで成り立っていることをも端的に示しているように見える。

アミノ酸残基のhydropathy indexとI'/O'値の比較(Glyを除く)

そして秀丸エディタというテキストを扱うツール,3D分子を思うように表示することのできるJmolとJmolスクリプトという発想,描画ツールや上掲アニメGIFを作成してくれる動画キャプチャなどの各種画像関連ツール,そしてそれらによる作品を世界中に伝えてくれるインターネットという驚くべき場。
そのツール群と場の中で思いのままに仕事を続けてきている中で,このブログでも再三取り上げている梅田さんの本を改めて紐解いてみた。
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その終章には,『より求められる「自助精神」』(p.232)があり,“ウェブ時代”において本エントリータイトル“世の中の存在しなかったものをつくる”上でどのようなことが求められているか明瞭に記されている。ひとりひとりのアクティビティが必要となっている中,これからも思いがけないツール・データベースや題材と遭遇することを楽しみにしつつ「ネット世界」とつき合っていきたい。