村上龍さんの「半島を出よ」とアジアの過去・現在・未来

半島を出よ (下)
半島を出よ (上)
数日夜中に目覚めて読み続けてようやく今朝,

を読了。荒唐無稽な物語のようにも見えるだろうが,人類は過去に荒唐無稽な出来事を数多く経験してきていることを忘れてはならない。昨今の日・韓・中・米の関係を見ても何が起こっても不思議ではない(作品にはこれに北朝鮮が入る訳だが)。またしても村上さんの守備範囲の広さを示しており,巻末の参考文献に圧倒される。
地理的には遠いアメリカと,至近にあるアジア。ここ数日の韓国・中国の反日デモ(近年の日本のデモについて違和感を感じていた辺見庸さんはどう見ているだろうか…。なお環境という観点でも破壊的な活動は許されない)に対する様々な分析と村上さんの作品,そして以下の資料のアジアについての記述を読み合わせてあれこれ考えている。

冒頭の国家ビジョンに“2050年までに、わが国は「品格ある国家」、「アジアの信頼構築を実現とあるのは,現在の事態を予見していたようにも見える。そのことは,以下の分析を踏まえたものといえるだろう。

    2.5. 東西冷戦下日米の枠組みの中で経済大国となった日本
      1945年の壊滅的な敗戦の状況の日本は米国の統治下に置かれ、種々の根源的な社会制度改革が始まった。東西冷戦構造世界を支配する新しい時代が到来した。このような状況日本が本格的に復興できたきっかけには、朝鮮戦争(1950−1953年)による特需の発生があった。その後に続く高度経済成長背景にはベトナム戦争(1954年独立、南北分離、1975年終結特需等もあって、20世紀末まで継続した東西冷戦構造の下で、日本日米安全保障条約とともに比較的安定的な産業投資を行うことができたこともある。日本の社会制度勤勉な国民性等とともに、米国の主導する枠組みに守られ、厳しい国際情勢の中で自立的意思決定を迫られることなく、「経済成長政策のもとで経済力の拡大に専念できた結果、世界第2位の経済規模に到達することが可能となったのである。
この点は,2004/11/17に記した学会での日本学術会議議長・黒川先生による講演でも語られていて,日本の今の繁栄を産み出すにあたって,日本独自の政策やら発明(西欧に誕生した科学技術を借り物と考えるならば)などが役立った訳ではないとしていた。蒸気機関,航空機,万有引力の法則,遠近法,インターネットやGoogleラグビー・サッカーなどのチームスポーツ,議会制民主主義等々も西欧の産物ではある。
漢字や農耕文化なども借り物あるいは外からの持ち込みとするならば,日本のオリジナリティというものをどういった面に見出していくかは極めて重要なことだろう。
ただ,文化は持ちつ持たれつであるのも事実で,それでなければ多様な生物の世界で脳の活動を戦略的に最優先した意味がないことになる。
中国での日本製品排斥ということで思い出したのが,以下の番組。

日本独自の眼鏡製造技術が,中国の国家的な分析技術なども利用して模倣され,安価な製品を作られてしまったというもの(日本自体も,成長期には国の保護が手厚かった訳だし,もともとマネルことがマナブことなのだけれど)。たまたま番組の数日前に,鯖江市出身の学生と話をして,同市が国内では最大の眼鏡産地であることや中国のために苦しくなっていることを聞いていたため,強く印象に残っている。
いろいろな技術は失敗を重ねた後にうまくいってもそれが未来永劫価値を産み出し続ける訳ではない。それをわざわざ人為的に潰してしまうことは,お互いにとって大きな損失になるだろう。
「半島を出よ」を読みながら,特に下巻p.484の,外交に限らず,アジアアフリカとの協調関係がなければ緊急時には対処できないと,高麗遠征軍事件国民は身に沁みて理解した”とあるところなどでは,以上のようなことを繰り返し思い起こしていた。