村上春樹版「ロング・グッドバイ」
発刊を楽しみにしていた本を今朝読了。巻末の「あとがき」も含めて,いろいろ納得させられながら堪能させてもらった。
私がチャンドラーをはじめとするハードボイルドにはまったのは学生時代で,そのきっかけは定かでないが,村上さんは高校の頃に清水俊二版を手にしその後も原著を含めて繰り返し読んで,“準古典小説としての『ロング・グッドバイ』”あるいは“文章家としてのチャンドラー”という位置づけを与えていたとのことにまず驚かされる。この点については,
の中で,大沢在昌さんが従来のハードボイルドという扱いがなされなかったことに無念さを示していること読みあわせると興味深いが,素人としては単純にチャンドラーはチャンドラーと思うのみである。
本文を読む中で疑念に思ったことのいくつか(例えば登場人物の言葉遣い*1など)も「あとがき」を読んで納得でき,村上さんのサービス精神に感謝するばかりである。また,上の新聞記事にもあるように清水訳ではかなりの部分が省略されていたということは意外だった。
ところで,マーロウについては昨年出版された,
においては,“おしゃれ教本”としてその作品群が読み解かれている。この中で,「ロング・グッドバイ」(清水版のタイトルは「長いお別れ」)を取り上げている項目は(落ちもあるかも知れないが),シャークスキン,キャメル,手袋(グラヴ),シャンパン,バーボン,ハワイアン・シャツ,ローファー,腕時計,葉巻(シガー),チェス,サングラス,ギムレット,ボウ・タイ,といったところ。村上版を読んだばかりの方は,これらの小道具(あるいは酒の種類)が重要な役割をご理解いただけるだろう。
それではこの中から,手袋(グラヴ)が出てくる部分の訳を並べてしめとしよう。時代背景を知る上でも両書を読み比べるのも一興である。
- 清水訳:ローリング博士はポケットから手袋をとり出して、片方の指先を持つと、ウェイドの顔をつよく打った。
- 村上訳(p.247):ドクター・ローリングはポケットから手袋を取り出してぴんと伸ばし、指の先のところを持って、それでウェイドの顔をぴしゃりと強く叩いた。
このグラフをブログに貼ろう!
*1:例として“はんちく”