伏見康治さんと原子力そして「かたち」

この8日に物理学者の伏見康治さんが亡くなられた。

西日本新聞“54年には政府・自民党が原子炉建造予算を打ち出したことに衝撃を受け、「自主、民主、公開」の3原則を掲げた「原子力憲章草案」を書き上げ学術会議に提出。同会議はこの3原則を守るよう政府に申し入れ、55年に公布された原子力基本法に盛り込まれた”
とある。この経緯については,
原子力の社会史―その日本的展開 (朝日選書)

のp.56〜『原子力研究の解禁と科学界の動き』に詳しく,学界も産業界も予想していなかった時期に原子力研究開発予算が国会に提出されるという政治主導で始まったという経緯がある中で,p.69には後の原子力三原則につながる伏見の提案に関連して“ただし伏見と似たアイデアをもち,旺盛な著述活動を通して,伏見よりも先に一般社会に発表していた人物がいた。それは物理学者の武谷三男である”と記されている。
科学入門―科学的なものの考え方

ところで,伏見さんと言えば,次のような著書・編書があり,「科学とアート」という面でも多彩な業績を残されている。
アジアの形を読む (形の文化誌)
美の幾何学―天のたくらみ,人のたくらみ (中公新書 554)
自然に論理をよむ (1978年) (撰集日本の科学精神〈2 自然と論理〉)

「アジアの形を読む」には『紋と文様』という一文を寄せており,家紋のかたちを対称性を数量化する群論から論じているが,群論は分子の対称性と性質の関係を考える上でも欠かせない。
群論と分子 (化学モノグラフシリーズ (19))

「生活環境化学の部屋」サイトで生体分子の対称性と言えば,

だが,2008/04/09の“桜”に続いて,家紋に見えそうなデータを選んでみた(PDBデータ1msl)。「アジアの形を読む」の家紋図p.31でC5Vにされている桔梗や加賀梅鉢に見えなくもないと思うのだがいかかだろう。

なお,低分子の対称性を考える旧コンテンツを昨日Jmol版にしてみたので,ご覧いただければありがたい。

伏見さんの著書を読み返しながら,サイエンスとアートは不可分だという思いをさらに強くしている。

*1:2005/11/27ほかでも紹介