タミフルと環境ホルモンから見る「鍵と鍵穴」
タミフル問題の続報が出た。
「薬」という分子が分子で構成される体内で起こす反応は単一ではないし,個人差があることをまざまざと見せつけられる。ある分子と生物との相互作用を考える上で「耐性」のことも念頭に置いておく必要がある。
自作Webページ「鳥インフルエンザ&新型インフルエンザ情報」では,タミフルの作用を以下のような図で示している。
タミフルが体内で変化してできる有効成分GS4071と鳥インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼとの,「鍵と鍵穴」に相当する部分を見てみようと,このブログでも取り上げたことのあるCASTpを使って導き出した結果をアニメーション図にしたのが以下になる。
GS4071を含むPDBデータ2qwkについて,CASTpによるGS4071近傍Pocket(鍵穴の候補)のID53+54から目視で選んだSITE(鍵穴)部分
さて,インフルエンザから離れてもう一つ気になっている「鍵と鍵穴」の話題を,一昨日届いた学会誌に掲載されていた論文から。
- 前田紘輔・Alexander SCHUG・渡邉博文・福澤薫・望月祐志・中野達也・田中成典,『エストロゲン受容体のアミノ酸変異によるエストラジオール結合エネルギーの変化』,Journal of Computer Chemistry, Japan, 6(1),33(2007) ※PDF版
エストロゲン受容体とリガンドの量子化学計算の研究で,この分野の最近の進歩を知ることができる。
- “エストラジオール(Estradiol ; EST,Figure 1)は女性ホルモンであるエストロゲンの一種である。この受容体に結合するリガンドは複数存在することが確認されている。本来結合するはずのESTなど天然のエストロゲンに加えて、骨粗鬆症治療薬であるラロキシフェンや、ジエチルスチルベステロールなどが結合する。
これら以外にも、エストロゲンに似た化学物質として受容体に結合してしまい人体に悪影響を及ぼす環境ホルモン(内分泌撹乱物質)があり、問題視されている。”
この研究で使われたPDBデータの1qkt,1qku,1ereについては,PDBデータに記載されているSITE情報をもとにデータ集「PDBデータのLigand結合部位」(Chime版)*1に掲載しているが,上の引用分とも関係する以下のような図も提示している。
エストロゲン受容体1ere,1err,3erd,3ertの共通site部分
(右下では17β-estradiolがピンク,diethylstilbestrolが赤,raloxifeneが水色,4-hydroxytamoxifenが黄)
※有機概念図で見る環境ホルモン関連分子(2)より
(日本環境化学会第12回討論会で発表)
PDBデータのLigand結合部位(Chime版)による1qkuの鎖のSITE部分
※上記論文 Figure 3 に対応するが,SITE部分は異なり水素付加もなされていない。
タミフルにしろ「環境ホルモン」にしろ,長い間ビジュアルなあるいはインタラクティブなコンテンツ作成に取り組んできたことが,新しい研究が出た時にある程度対応できることにつながっていると実感させてもらえるのも,今という時代に重要なテーマに多くの研究者が関心を持って立ち向かっているという同時代性のなせるところであろうか。
*1:Ligandが「鍵」に相当。