北大総合博物館「分子のかたち展」に寄せて(2)

生体分子の立体構造を見る際に気をつけなければならないのが,PDBデータの多くには水素原子が含まれていないこと*1。その場合,水素結合にも水素が登場しないことになるし,以下のような「結合の手の数」や「“く”の字」の話も想像で補うしかない。


結合の手の数


※右の「くの字博士」は昔描いたものをスキャナで読み込んで着色

おまけに多重結合も表示されないので,ベンゼンもシクロヘキサンも環の上から見れば正6角形で見分けができず,角度を変えて見て,歪みの有無で判断するしかない。

ベンゼンとシクロヘキサン


〔左〕ベンゼンを含むPDBsumデータ220l
〔右〕シクロヘキサンを含むPDBsumデータ2tioからSO4を削除したもの

こんな話も面倒と思うか,構造データを見る楽しみがかえって増えたと思ってもらえるのか,気になるところである。ただ,分子表示ソフトは座標しかない構造データから結合の有無や高次構造(α-ヘリックスなど),水素結合の位置まで計算して多様なグラフィック表示をしてくれることを知っていただきたいと思います。

*1:主にX線回折によるデータ。NMRや中性子回折によるものでは表示されることが多い。2008/03/02など参照。